信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

16. 貧血

2000.3.22 畦上F 

◆定義

血色素量または赤血球数の減少した状態をいう。

〜WHOの基準〜
 Hb濃度 
 M:13g/dl未満   
 F:12g/dl未満  
 幼児(6ヶ月〜6才):11g/dl未満  
 小児(6歳〜14歳) :12g/dl未満

◆成因

 骨髄で産生された赤血球は、1日に約1/120の赤血球が崩壊し、一方では同量の赤血球が産生され、一定のバランスを保つように調節されている。
|赤血球産生の低下
}赤血球破壊の亢進(溶血)
~赤血球の血管外喪失(出血)
多くは、これらの組み合わせにより貧血が起こる。

◆分類

 

(1)鉄欠乏性貧血
体内の鉄の需要と供給のバランスが負になった結果、個々の赤血球に含まれているヘモグロビン含量が低下した形の貧血。

(2)悪性貧血
胃の壁細胞から分泌される内因子が欠如するためにビタミンB12の吸収が障害されて起こる貧血。

(3)再生不良性貧血
骨髄での造血機能が低下したため、赤血球、白血球、血小板などすべてが減少する。
原因不明の突発性のものと、放射線障害、薬剤中毒、感染症などによる二次性のものとがある。

(4)溶血性貧血
種々の病態によって赤血球の崩壊の程度が亢進したために起こる貧血。

◆診断

1)貧血があることを証明
 自覚症状:労作時の動悸、息切れ、耳鳴り
 他覚症状:皮膚・粘膜の蒼白、頻脈など
 検査:血液検査、赤血球数算定、Hb濃度定量、Ht測定、貧血の存在と程度を知る。

2)貧血のうちいずれに属するかを診断
 臨床的に出血性素因、発熱、肝、脾、リンパ節腫、黄疸の有無により推定
 検査:骨髄像、肝機能検査、赤血球抵抗試験、coombs試験、血清鉄値、血清B12 など。

《各種貧血症の鑑別診断》

 

歯科治療時の注意点

・重症貧血では血色素量8g/dl(できれば10g/dl)以上のレベルまでの改善を待って治療開始するのが望ましい。
・二次性貧血の場合はその当該疾患との関係が別に問題となるので、医科との個別連携が必要。ことに慢性関節リウマチ、慢性腎不全の患者で比較的強い貧血がみられる。
・再生不良性貧血では、非観血的歯科治療においても、白血球数の減少や免疫能の低下があるので感染には十分注意する。また、観血的処置は主治医と緊密な連絡をとり血小板輸血や後出血処置の十分な準備が必要。
・高度の悪性貧血では、血小板数の減少、血小板機能の低下もあるので出血傾向に注意する。白血球数、白血球の機能については正常に近いと考えられる。
・溶血性貧血の中で、自己免疫性溶血性貧血は特殊性を有した疾患であり、投薬に際しては医科との個別連携が必要。

投薬時の注意点

鉄欠乏性貧血:ほぼ問題はないが、鉄剤は一部の抗生剤と同時に服用すると、薬剤の吸収を阻害することがある。

ビタミンB12欠乏症:胃切除後あるいは胃疾患を有する場合であるからこの点を考慮する。

二次性貧血:それぞれに対応する基礎疾患とその状態、および服薬中の薬剤などを考慮する。

自己免疫性溶血性貧血:薬剤誘発性の溶血(ケフラール)も可能性があるので、医科との連携が必要。

 

貧血による緊急事態として特別なことはない。

 

<参考文献>内科学ハンドブック      文光堂刊

      病気を持った患者の歯科治療  長崎県保険医協会

      高齢者歯科治療マニュアル   永末書店

      有病者の歯科治療       医歯薬出版株式会社


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